ルイヴィトンキーポルバンドリエール
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null まるで心の腫《は》れものを柔らかい舌で舐《ねぶ》られたようで、執拗《しつよう》につづいていた下腹の痛みも忽然《こつぜん》と消え去っていた。 (どうやら分かったようだな) (おおせの通りにござる) (ならばすぐに仕度をせよ。近衛関白が迫っておる)  久秀は素早く立って扉を開け放つと、五大堂に至急護摩壇を築くように配下に命じた。  和気清麻呂の墓所からしばらく歩くと、樹氷となった木々の向こうに瓦《かわら》ぶきの屋根が見えた。鐘楼らしいが、その前には高さ二間ばかりの柵が結い回してあった。  神護寺を山城として使うようになって以来、松永弾正は境内の周囲を柵で囲い、要所には見張り櫓《やぐら》を建てていたのである。 「何や、こんなもん」  乗り越えようとでも思ったのか、飛丸が|※[#「木+累」、unicode6a0f]《かんじき》を脱いで走り寄った。  途端に鳴子がけたたましい音をたてた。雪の上に張られた綱に足を引っかけたのだ。  飛丸はあわてて綱を切ったが、時すでに遅く、鐘楼にいた十人ばかりが鉄砲を構えて飛び出していた。 「若、その陰にいておくんなはれ」  前嗣を岩場の陰に押しやると、小豆坊は飛丸の首根っ子を押さえつけて柵の前で土下座させた。 「この阿呆《あほう》が、お前のせいでえらい迷惑をかけたやないか」  そう怒鳴りながら、兵たちに向かって何度も頭を下げた。 「わしら薬草取りの者ですが、道に迷うてしまいまして」  二人とも山伏装束をしているだけに、兵たちも気を許したらしい。おわびに酒《ささ》代など差し上げたいという小豆坊の言葉を信じて、柵の間近まで歩み寄って来た。